向き合うことがこれ程辛いとは思わなかった。向き合うことが成長に繋がることを知らなかった。
だから向き合う。自身のために。
向き合うことがこれ程辛いとは思わなかった。向き合うことが成長に繋がることを知らなかった。
だから向き合う。自身のために。
覚醒するということに救いを求めていた自分がいた。
きつくても、いつかきっと楽になると。
その為にたくさんの本を読み、考え、自問自答を続けてきた。
でもそれはきっと、オセロの石が黒から白に変わるような、一瞬の時間ではおこらない。
ブラックコーヒーにミルクを一滴ずつ垂らすように、少しずつ、少しずつ、自分の心を正しい色に染めていからければならない。
僕は誰とよりも一番長く、これまでもこれからも自分の心と付き合っていく。
だからゆっくりでも、一滴ずつ、正しい色に染めてゆく。
アルコールをやめてから、徐々に生きる事への希望が増していく中、靴の中に入り込んだ小石のように、時折僕のこころに違和感をもたらすことがある。
それはふとした瞬間に僕のこころに訪れては、しばらく寂しい気持ちを抱かせ、胸の奥にはもやっとした不快な感覚が停滞する。
僕は、いつからかは忘れたけれど、気がついたら人に対する愛情というものを、遠い何処かに置いてきてしまった。
普段、当たり前に会話をしたり、時には数少ないながら冗談を言い合ったりすることもあるけれど、人に対する愛情というか、もっと率直に書くと興味というものが沸き起こらなくなっていた。
僕はここに存在し、彼や彼女もここに存在しているらしい。
彼や彼女は今、ここでご飯を食べているらしい。
文書にするとこんな感じだ。
なかなか上手く言えないけれど、全てが3枚位重ねた半透明のビニールの向こう側で起きていることみたいに感じ、現実感が乏しかった。
そんな状況からか、僕はいつの間にか意図的に相手と一定の距離を置いて接するようになった。
そっとしておいてほしい。
僕に構わないでほしい。
そんなこころの声に従い、誰とでも一定の距離を置いた。
そのことで、無性に相手に対して罪悪感を感じることがあった。
積極的な関わりを遠ざける僕は、親不孝であり、妻不幸であり、子供不幸であると。
それは、もしかしたら僕だけが感じていることであり、相手にとっては少し無口な性格、位に思われていたかもしれない。
ただ僕は罪悪感を感じ、結果として徐々にその距離感を広げていった。
子供の頃、学校が早く終わる日の午後に、自分から友達と遊ぶ約束をすることに、少しの勇気を必要としたことを思い出す。
それは、もしかしたら別の予定があって断られるのではないか?や、単純に拒絶されることへの恐れからだった。
それでも当時は少しの勇気を振り絞って約束を交わし、子供ながらに有意義な時間を共有した上で、次の約束を取り交わしていた。
その勇気がいつの間にかなくなっていた。
いや、無くなったのは勇気ではなく、意欲だった。
人と関わり、有意義な時間を過ごすことに対する意欲が無くなっていた。
今朝、いつもより一時間半程早く目が覚め、猫以外の家族がまだ寝静まっている時間に、ぼんやりと庭の草木を眺めながらタバコを吸っていた。
その時、隣のご主人がポストから新聞を取り、家に戻って行った。
何年も前から繰り返されてきた、何気ないその行動をぼんやりと見たとき、僕はふと、隣のご主人のこれまでの人生を想像した。
その一瞬、僕は僕ではなく、隣のご主人として、過去を振り返っていた。
ほとんどと言っていいほど、何も知らない過去を振り返っていた。
その時、僕と相手ではなく、僕はご主人だった。
その一瞬の後、僕は少しだけご主人に興味を感じた。
その感覚は意図せず起こった、弱いながらも相手に対する関心だった。
その細やかな関心と共に訪れた、懐かしいこころの暖かさは、この先の僕に何かしらの変化をもたらすと感じた。
今日で断酒2年が経過した。
だから一つの区切りとして、これまでの気持ちの変化を書いておく。
2年前の昨日まで、僕はアルコールに操られていた。
体も、思考も、過去の記憶も未来の希望も。
全ての思考や行動が、アルコールを飲むために都合よく働いた。
アルコールが全てであり、アルコールを妨げるものは全て僕にとっての悪だった。
アルコールと共にあった過去は、アルコールによって美化され、アルコールの無い未来は存在しなかった。
アルコールがあれば、未来が存在しなくても良いと思っていた。
今になって考えると、矛盾だらけだけれどその時は信じていた。
僕はアルコールが必要なんだと。
あんなことや、こんなことや、あんな人や、こんな人がいるから、僕にはアルコールが必要なんだと。
2年前の昨日、僕はアルコールをやめたくないからやめたくて、やめたいからやめたくなくて、泣いて、、、
そうだ!
書き出した。
ノートの真ん中に、縦に一本の線を、冷たくて、紫色で、震える手で引いて、今の自分を左側に、その逆の自分を右側に汚い字で書き続けた。
あのノートは今何処に有るかは知らないけれど、泣きながら書いた内容は今もはっきりと覚えている。
あれから2年経った今日、あのノートの右側に書いた僕が居る。
もし、今2年前の僕が目の前に居たなら、こう伝えたい。
「例外なんて存在しない。
その考えも、
その辛さも、
希望が持てないのも、
苦しさも、
寂しさも、
不幸も、
どうでも良さも、
あれもこれもそれも全部、
飲まなければいつかきっと解決するよ」
と。