むかしむかしあるところに、
「あなたの欲しいものは何ですか?」
と訪ねられてもなにも答えることができない僕がいた。
毎日浴びるようにビールを飲んで、自分は不幸だ、自分のことをわかってくれない、自分はもうどうなってもいいんだと、いつも、自分は、自分はと自分に言い聞かせていた。
そして時たま主語が自分でなくなった時も、彼は◯◯だから、自分は辛い。
と、やっぱり自分に自分はと言い聞かせていた。
なんのために?
自分は、自分はと思うほど僕は僕が見えなくなった。
“自分”という存在は、どこか遠くにいて、よく分からない存在で、何を言っても反論してこないし、攻撃してこなかった。
だから何かあると、いや何もないときでもひたすら攻め続けた。
なんのために?
それはアルコールを飲むために。
自分を傷つけることを、そして傷ついた自分を酒の肴にするために。
酒を飲むことをやめたあと、気づいたことがある。
酒を飲まなければ自分を“肴”にする必要はない。
相変わらず、欲しいものは特に無いけれど、今の僕が欲しいものがない“理由”は昔とは全く違う。
今の僕は、大切なものをたくさん手にしているから、これから先は手にしているものを大事にしたいから。
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