僕の心には裏と表が存在する。
それはポケットからこぼれ落ちたコインのように、重力に従い静止するまで、どちらが出るかは僕自身にもわからない。
いつからだろう?裏と表の間にコルカ渓谷のような深い溝が生まれたのは。
きっとそれはアルコールという物質を毎日体に流し込むことによって、長い年月をかけて滴り落ち続ける水滴がいつしか硬い岩盤に穴を空けてしまうように、僕の心を裏と表にはっきりと分断してしまった。
おそらくこの分断は元に戻ることな二度とないと思う。一度知ってしまったことは、ダイヤモンドの塊に頭を酷く打ち付けて記憶もろとも消し去ってしまわない限りはずっとどこかに存在し続ける。厚い氷の下のワカサギみたいに。
だから僕は僕の裏と表それぞれと上手いこと折り合いをつけてやっていかなければならない。
その裏と表のどちらか一方でも、かりにコントロールを見失った時、おそらく僕の目の前にはクシャクシャに捻り潰したビールの空き缶の山が転がっているだろう。
その山を目にした僕には未来はそれほど残されていないだろう。
これは決して大袈裟な事ではなくて沢山の、アルコールによって人生を諦めてしまった人達ともれなく同じ道を歩むことになる。
もし、僕と同じように心の裏と表に深い溝を感じながら、その溝をアルコールによって記憶もろとも消し去りたい衝動に狩られそうな人がいたら、一瞬でいいから思い出してほしいと願う。
何を思い出せばよいかはきっと自分自身が一番詳しく知っているはず。